最終更新: 2006-4-30 作成: 2004-6-22
大正10〜12年に南海鉄道他から購入した中古車10両と，昭和2年10月13日認可で大阪市電気局から購入した11型18両，291型2両の木造四輪車。ここでは便宜上，前者をBa型(101〜110号)，後者をBb型(111〜130号)としています。
明治42年3月に大阪馬車鉄道(現在の阪堺上町線)が電化改軌して浪速電車軌道として開業する際に20両購入した車両です。浪速電車軌道は開業を前にして南海鉄道と合併，大阪市との軌道共用契約により明治43年9月に30両を増備しました。明治43年10月1日に天王寺西門前−住吉神社前が開業。明治44年1月29日には大阪市電との乗り入れを開始しますが，明治45年1月12日に乗り入れ契約解除となり，30両を大阪市に譲渡しました。
一方，明治44年12月1日には，阪堺電気軌道(現在の阪堺線)が開通し，南海と旅客誘致競争を始めています。阪堺の社長は大阪財界の大御所で広島電気軌道の発起人でもある片岡直輝，役員には広島電気軌道の社長の大林もいました。阪堺線は市街地を走り沿線行楽地へ便利なほか，新世界の開発や大浜公園でイベントを開催し誘致しました。一方当時の南海本線は蒸気機関車の列車と電車の併用で不利であり運賃を半額にするなど対抗しました。競争が激化したため大正4年6月21日仲裁により，南海が阪堺の事業を引き継ぐ形で合併しました。
合併に伴い両線で車両の共用を行うため，電気系統の改造を行いました。合併前，阪堺は52両もの最新のボギー車を所有していました。既に平野線も開業していたとはいえ，南海との競争がなくなった後は余裕があったようです。四輪車は処分の対象となり，大正8年に10両が兵庫電軌を通じて大阪461型へ，大正9年に2両が散水車に改造，のこり8両が大正10年に広島瓦斯電軌に譲渡されました。
鉄道統計によると，大正12年に広島で46人乗り車両が2両増加しています。大正11年9月30日現在の営業報告には梅鉢鉄工所から中古電車2両を購入したとありますが，前所有者や仕様および竣工日などは不明です。おそらく改造工事などでの余剰品の活用か注文流れで調達し，Ba型と同じ仕様に改造したのでしょう。なお福博(西鉄福岡市内線)には南海の注文流れと言われる同型車がいました。
大阪461型は昭和3年に全廃。南海に残った散水車は1両が戦後には構内入換用機関車TR2となり現役です。
大阪市へ乗り入れのため，大阪市11型と同一形態ですが，詳細は異なっていました。しかしほとんど資料が残っていないため不明点も多くあります。
外観：オープンデッキの車両でした。上町線開業時の写真では，正面にガラス窓がなくダッシュボードのみでした。大正4年9月18日認可で車体改造をしているので，このときガラス窓を設置したようです。ガラス窓の幅は車体幅に合わせ幅広のものがついていた様子が，移籍後に御幸橋でE型と写っている写真で判別できます。側板は腰細横長手2段で，馬車を思わせる古いデザインでした。全長27ft3inch(8306mm)客室長18ft(5486mm)車体幅7ft5inch(2261mm)とA型よりやや小さい車両でした。最初の10両は全長が1ft短かったようですが詳細は不明です。
窓・戸：側窓は片側8枚，正面は3枚で窓枠内側上部にRがつき下降窓となっています。日除けは鎧戸で下降式。正面幕板部にも小窓があり，方向幕となっていたようです。乗降口のデッキと客室の間の扉は片引で有効幅1ft10inch，高さ6ftと狭くなっています。
車内設備：座席が客室長手方向いっぱいに延びていました。
主電動機・駆動装置：DC600V定格で20psが2個で，型名はGE-52。駆動装置は釣掛式で歯車比は67:14となっています。
制御装置：直接式で電気制動付き。
ブレーキ装置：手用(ハンドブレーキ)と電気の2種類でした。
集電装置：トロリーポール式で，ダブルポールでした。製造時は中央部に2本でしたが，南海阪堺合併後の大正4年7月13日にボギー車との統一のため，前後4本になり，移籍後は再び中央部2本になりました。
台車：ブリル21Eで，ホイールベースは6ft6inch，車輪径31inchと標準的な台車でした。
大阪市の11型は明治39年9月4日認可で第二期線開業あわせ明治45年6月までに280両購入した車両です。大正12年に関東大震災で大きな被害を受けた横浜市へ25両譲渡したのを初めに，福岡・鹿児島・新阪堺・長崎・熊本・北九州・阪急のほか，満州新京市(現在の長春)へ譲渡しています。現在残っている国内の1435mmゲージ路面電車のほとんどに足跡を残したことになります。戦災で15両が焼失し残りは昭和26年に廃車となりましたが，昭和11年に廃車となっていた285号が戦災や解体を免れ，昭和30年に30号として初期の形態に復元し，市電保存館に保存しています。
大阪の291型は，前述の大阪市乗り入れ契約廃止により明治45年2月13日認可で南海鉄道から引き継いだ30両です。11型と同様に各地に譲渡され，戦災で1両を失い，残存車は昭和26年に廃車となりました。291型とBa型は同じ出目であり，まさか異郷の地でまた一緒に走ることになるとは思っても見なかったことでしょう。
前述の通りBa型と同一形態で主要寸法も同じです。運転台のガラス窓設置は大正5年3月10日の認可で行われたようです。ガラス窓の幅は台枠に合わせて6ft5inch1/2しかなく，屋根のほうから見ると前後が絞られている形になっています。また幕板にもガラス窓があります。車内は座席が側窓6個分しかなく，前後1枚分の車内は立席となっています。製造は日車と天野が担当しました。291型の欄間には南海の社紋入りの擦りガラスが残っていたようです。291型の製造は天野と梅鉢だったようです。
主電動機・駆動装置：20psが2個，型名GE-52-A2。大阪の資料では291型の主電動機はAEG-52-C6となっていますが，移籍時にGE製に統一されたのかそのまま互換品としてついてきたのか判っていません。駆動装置は釣掛式で歯車比は67:14です。
制御装置：直接式で電気制動付きのGE製B-18
ブレーキ装置：手用と電気の2種類です。移籍時にはブレーキハンドルが鶴首形だったので丸型に改造しています。
集電装置：US-7型でダブルポールです。中央部に2本設置。
台車：ブリル21Eで，ホイールベースは6ft6inch，車輪径31inch。移籍時にタイヤ形状を変更しています。大阪をはじめ京阪神の市電は溝付きレールを使っており，鉄道線などの工型レール用と比較して，車輪のバックゲージが広くフランジは低いタイヤ形状となっていました。
昭和13年3月7日にB型の車体更新認可があり，昭和14年6月から昭和17年7月にかけて30両すべてを400型(400〜430号)に改造しました。改造中の昭和13年11月11日の千田車庫火災で被災した，101,120,122,123,124号はB型としては復旧せず402〜406号として復旧しています。
外観：正面3枚窓，側面窓配置D5Dで幕板が薄く軽快なデザインでした。初期車はウンドシルやヘッダがありましたが，後の増備では全溶接構造となり，ノーシルノーヘッダ，張り上げ屋根となりました。
一般：半鋼製で自社工場にて製作しています。
窓・戸：正面は下降窓，側面は2段窓です。保護棒は1本。扉は折戸で手動式。
車内設備：座席定員18名，立席28名です。室内灯は3箇所。
昭和16年に車号を0からではなく1から始めることになり400→417,417→430と改番しました。
さらに418号から定員増加のため座席は18名から12名に，腰掛け長さ4502mmから2474mmで製作することになり昭和16年5月20日認可を受けています。
昭和16年12月17日認可で，救助器をパーメンタフェンダーからロックフェンダーに変更しました。
昭和18年10月26日認可で破損防止のため前照灯を屋根に上げる改造実施。ただし改造当初から前照灯が屋根についていたものもあったようで，事後申請と思います。
昭和19年8月までにビューゲルへ改造が行われたようですが，その過程でポールの先端を曲げビューゲルのシューを取り付けた427号のような車両もありました。
昭和29年10月30日認可で401〜419号のエアブレーキ化を行い手用は省略することになりました。また，制御器を泰平のB-29に更新したものもあったようです。
エアブレーキ化改造しなかった車両はダイヤ改正によるスピードアップで余剰となり，昭和31年に廃車。このうち425,426,430号が昭和32年3月7日認可で工作車に変更となりました。工作車は昭和38年4月16日に2両，昭和40年1月12日に1両廃車となりました。
その他の車両は昭和40年，43年，44年に廃車となりました。
| 車号 | 入線前 | 新製 | メーカ | 入線 | 年 | 鋼体化 | 改造 | 原爆 | 復旧 | 車号 | 改番 | 廃車 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 101 | ? | M.42.3 | 日車 | 101 | T.10.9.27 | 402 | S.14.6.20 | 大破 | S.21.10 | S.40.12.15 | ||
| 102 | ? | M.42.3 | 日車 | 102 | T.10.9.27 | 407 | S.15.6.18 | 大破 | S.21.4 | S.43.4.30 | ||
| 103 | ? | M.42.3 | 日車 | 103 | T.10.9.27 | 415 | S.15.11.17 | 大破 | S.21.12 | S.43.6.25 | ||
| 104 | ? | M.42.3 | 日車 | 104 | T.10.9.27 | 409 | S.15.10.9 | 小破 | S.21.8 | S.43.4.30 | ||
| 105 | ? | M.42.3 | 日車 | 105 | T.10.9.27 | 411 | S.15.11.7 | 小破 | S.20.12 | S.43.8.31 | ||
| 106 | ? | M.42.3 | 日車 | 106 | T.10.9.27 | 429 | S.17.7.13 | 焼失 | S.23.12 | S.31.3.31 | ||
| 107 | ? | M.42.3 | 日車 | 107 | T.10.9.27 | 416 | S.15.12.1 | 大破 | S.21.12 | S.44.10.31 | ||
| 108 | ? | M.42.3 | 日車 | 108 | T.10.9.27 | 414 | S.15.11.7 | 小破 | S.20.11 | S.43.6.25 | ||
| 109 | ? | ? | ? | 109 | T.12 | 400 | S.14.6.20 | S.21.8 | 417 | S.16.3.25 | S.44.10.31 | |
| 110 | ? | ? | ? | 110 | T.12 | 408 | S.15.10.9 | 大破 | S.21.12 | S.40.12.15 | ||
| 111 | 41 | M.41.7.28 | 日車，天野 | 111 | S.2.10.13 | 423 | S.16.5.22 | 中破 | S.21.2 | S.31.3.31 | ||
| 112 | 117 | M.42.2.15 | 日車，天野 | 112 | S.2.10.13 | 401 | S.14.6.20 | 小破 | S.20.9 | S.40.12.15 | ||
| 113 | 123 | M.42.4.17 | 日車，天野 | 113 | S.2.10.13 | 422 | S.16.5.22 | 中破 | S.20.12 | S.31.3.31 | ||
| 114 | 125 | M.42.4.17 | 日車，天野 | 114 | S.2.10.13 | 413 | S.15.11.7 | 小破 | S.20.11 | S.43.6.25 | ||
| 115 | 145 | M.42.4.19 | 日車，天野 | 115 | S.2.10.13 | 419 | S.16.3.22 | 大破 | S.20.11 | S.40.11.15 | ||
| 116 | 153 | M.42.3.9 | 日車，天野 | 116 | S.2.10.13 | 424 | S.16.5.22 | 中破 | S.22.1 | S.31.3.31 | ||
| 117 | 154 | M.42.3.9 | 日車，天野 | 117 | S.2.10.13 | 420 | S.16.3.22 | 中破 | S.21.11 | S.31.3.31 | ||
| 118 | 168 | M.42.5.6 | 日車，天野 | 118 | S.2.10.13 | 425 | S.16.5.22 | 中破 | S.21.9 | S.31.3.31 | ||
| 119 | 169 | M.42.5.6 | 日車，天野 | 119 | S.2.10.13 | 426 | S.17.7.13 | 大破 | S.22.2 | S.31.3.31 | ||
| 120 | 171 | M.42.5.6 | 日車，天野 | 120 | S.2.10.13 | 403 | S.15.4.1 | 小破 | S.20.10 | S.43.3.28 | ||
| 121 | 210 | M.45.5.15 | 梅鉢，天野 | 121 | S.2.10.13 | 427 | S.17.7.13 | 焼失 | S.23.12 | S.31.3.31 | ||
| 122 | 230 | M.45.5.27 | 梅鉢，天野 | 122 | S.2.10.13 | 404 | S.15.5.20 | 小破 | S.21.4 | S.43.3.28 | ||
| 123 | 233 | M.45.6.28 | 梅鉢，天野 | 123 | S.2.10.13 | 405 | S.15.5.20 | 中破 | S.21.9 | S.43.4.30 | ||
| 124 | 238 | M.45.6.28 | 梅鉢，天野 | 124 | S.2.10.13 | 406 | S.15.6.3 | 小破 | S.20.11 | S.43.4.30 | ||
| 125 | 243 | M.45.5.30 | 梅鉢，天野 | 125 | S.2.10.13 | 421 | S.16.3.22 | 焼失 | S.23.9 | S.31.3.31 | ||
| 126 | 258 | M.45.6.6 | 梅鉢，天野 | 126 | S.2.10.13 | 410 | S.15.11.7 | 小破 | S.21.11 | 418 | S.43.4改番 | S.44.10.31 |
| 127 | 274 | M.45.6.17 | 梅鉢，天野 | 127 | S.2.10.13 | 428 | S.17.7.13 | 小破 | S.21.4 | S.31.3.31 | ||
| 128 | 283 | M.45.6.28 | 梅鉢，天野 | 128 | S.2.10.13 | 417 | S.15.12.1 | 焼失 | S.23.10 | 430 | S.16.3.25 | S.31.3.31 |
| 129 | 297 | M.43.9/M.45.6.28 | 梅鉢，天野 | 129 | S.2.10.13 | 418 | S.16.3.22 | 大破 | S.21.10 | S.43.4.30 | ||
| 130 | 308 | M.43.9/M.45.6.28 | 梅鉢，天野 | 130 | S.2.10.13 | 412 | S.15.11.7 | 焼失 | S.23.7 | S.40.11.15 |