A型，450型

最終更新: 2004-8-15 作成: 2004-6-20

A型

経緯

廣島電気軌道(株)が大正元年11月23日の開業時に50両(101〜150号)購入した木造四輪車です。明治44年8月25日認可となっています。

車体関係

外観：側面に扉が無いオープンデッキの車両です。復元車があるので現在でも外観は良く知られていると思います。正面にガラス窓が付いたいわゆるベスチビュール付きと呼ばれる形状です。車体の前後は絞られておらず，ベスチビュールの幅が広くなっています。正面，側面とも窓枠上部内側には大きな円弧がありますが，車体側は直線になっていました。ダッシュボードには前照灯を設けていますが，尾灯はありません。正面の幕板中央には方向幕を設けています。側面の幕板部に小窓があるのは，他で見られない新しいデザインでした。側板は垂直羽目板構造で，いかにも大正初期のデザインですが，二重屋根は先端まで延びておらず古い様式を保っています。この結果，直線的なラインが多くドッシリとした印象を与える車両でした。全長28ft(8534mm)客室長19ft6inch(5944mm)車体幅7ft6inch(2286mm)自重8.1tとなっています。

一般：木造で米松，松，樅，塩地，楓，チークなどを使用しています。製造は天野工場(→日本車両蕨)が担当しました。

窓・戸：前述のように側面幕板に小窓があるのが最大の特徴で，その後製作された大阪市321型など影響を受けた車両もありました。側窓は片側8枚，正面は3枚で前述どおり窓枠内側上部にRがついていて，下降窓となっています。保護棒は4本でした。乗降口のデッキと客室の間の扉は，両開きの引戸となっていて有効幅3ft，高さ6ftでした。

車内設備：座席が客室長手方向いっぱいに延びていて，座席定員は22名となっています。定員は46名でした。

機器関係

主電動機・駆動装置：DC500V定格で20psが2個で，型名はGE-52だったようです。駆動装置は釣掛式で歯車比は67:14となっています。

制御装置：直接式で電気制動付きです。

ブレーキ装置：手用(ハンドブレーキ)と電気の2種類です。手用は，明治村などで見られる鶴首型ではなく，丸型のハンドルでした。

集電装置：トロリーポール式で，架線が複線架空線式のためダブルポールとなっています。

台車：米国JGブリル製21Eで，当時の世界標準的な台車です。ホイールベースは7ft6inchと当時の京都大阪より1ft長くなっています。また側枠の中間部分が紡錘形なっていて，台枠のひずみを平均化させるようになっているのもA型の台車の特徴でした。車輪径は33inchで非常に大きいものです。

変更点

製作時の車両番号は101〜150号でした。大正9年頃1〜50号に変更となったようです。

大正10年2月15日には，鉄道線運転申請が出ています。これは直通運転を考えたものではなく，宮島線用として準備していた車両の資材が，第一次世界大戦後の反動恐慌により調達困難となったためです。このときは，バックゲージが適合しない，プラットホームとの間隔大，踏み段の高さがホームより低い，といった地方鉄道建設規程に抵触する事項があって，申請に手間取っているうちに本来の車両の調達に目処がつき，6月21日に取り下げています。

昭和9年には架線が単線架空線式となったので，シングルポールへ改造を行い10月13日に竣工しています。

昭和11年2月12日には車体のゆるみ防止のため側板の羽目板と幕板を鋼板にする改造が認可を得ていて，昭和13年2月3日に竣工しています。しかし過去発売されている写真集などを見るともっと早く改造されているのではないかと考えています。この改造により側面の幕板の小窓は無くなり，更に重厚なイメージの車両となりました。

昭和13年11月に千田車庫火災のため12,33,43号の3両が半焼，11両が全焼してしまいました。全焼した車両は450型として復旧しています。このとき空き番号ができたので昭和16月3月25日に改番し101〜139号と整理しました。

昭和16年12月17日認可で，事故時の完全動作と取扱いの低減を狙い，救助器をパーメンタフェンダーからロックフェンダーに変更しました。

昭和17年3月3日に白島線での弓形集電装置(ビューゲル)試験の認可が出ています。対象は114,117,121,129号であり，129号は試験中の写真が残っていますが，対象車が全て改造されたのか，また構造が4両とも同じだったかどうかも不明です。試験の理由については，これまで発表された資料では，防空上の理由とされているが，申請資料には摩耗を減少させ，折り返しなどでの負担軽減が目的としています。当時は他社でもトロリーポールの滑車の銅を節約するため，滑車をスライダーやシューにしてカーボンやアルミ合金を使う研究が行われていたようです。当時の車両課長の二宮氏が開発した自家製ビューゲルはドイツ製とは異なり，スプリングを両側から引っ張るようになっており，折り返しでは自動反転できるようになっていました。ただ傾斜角度により押し上げ力が変わるため架線の高低差がある路線では使いにくかったようです。またビューゲル化に合わせて架線の改良を実施しており，実用新案をとった支持金具は，各都市で採用されています。

戦後の復旧では昭和24年〜25年に4両が450型となりましたが，昭和26年2月2日付けで22両が廃車となりました。廃止時の資料を見ると，戦時中には座席を全て撤去した車両もいたようです。

残存車はさらに車号を整理しましたが，復興都市計画による軌道移設による工作車や事業用車となり昭和32年4月13日に全廃となりました。

450型

経緯

昭和13年11月11日22:00頃千田車庫にて火災が発生し，鉄道線車両を含む半焼3両，全焼21両という被害がでました。A型で全焼した11,14,19,27,30,31,32,34,44,45,46号の11両は，当時計画中だった400型と同等の車体を製作して復旧することになり，昭和15年1月19日に認可を受け451〜461号となりました。

戦後の昭和24年1月20日にはA型14両の半鋼製化が認可されましたが，実際には4両(462〜465号)が竣工し合計15両となりました。

車体関係

外観：正面3枚窓，側面窓配置D5Dで窓や扉上部にRがあり当時の流線型ブームの影響を受けたデザインとなっています。車体は見た目には400型とほぼ同一に見えますが，台車が異なるため詳細寸法は異なっています。すぐに気づくのは扉の高さで，400型が側窓と同じなのに対し450型では正面窓と同じ高さになっており，450型の方が低くなっています。ただし戦後製の450型は扉の高さが側窓に合わせられていました。台車のホイールベースが長い分車体長が長く，側窓の寸法も延びています。一方車輪径も450型のほうが大きいため，床面高さも高くなっています。前照灯は改造当初から屋根に埋め込み形で設置されていました。

一般：台枠・構体は鋼製，車内は木製のいわゆる半鋼製で自社工場にて製作しています。 車輪径が大きいため，車内中央部が高く扉付近は低くなっており途中はスロープになっていました。

窓・戸：正面は下降窓，側面は2段窓です。側面はほぼ1m×1.1mの非常に大きな窓でした。保護棒は1本です。扉は戦前製は折戸，戦後製は引戸と異なっていました。どちらもドアエンジンはなく手動です。

車内設備：座席は戦前製が扉横448mm分が立席となり，実質的に窓4個分の長さで座席定員22名です。戦後型は座席は中央部窓3個分の長さで座席定員18名です。定員は46名。室内灯は2箇所でグローブつきです。

変更点

昭和16年12月17日認可で，救助器をパーメンタフェンダーからロックフェンダーに変更しました。

昭和29年10月30日認可でエアブレーキ化を行い手用は省略することになりました。

そのほか，細かい変更としては，正面側面の窓の直上に水切りの取り付けや，昭和33年4月から始まった路線番号の実施による系統板取り付けがあります。

昭和40年に2両，昭和44年に残り全てが廃車となっています。

車歴表