1100型

最終更新: 2006-2-1 作成: 2005-5-22

1100型

経緯

地下鉄の導入も検討された時代，広島電鉄でも市内線の存続の議論がなされましたが，最終的に存続を決定。更なる合理化のため，神戸市のワンマンカーのほぼ全数を購入しました。昭和46年10月8日認可となり，12月21日ダイヤ改正による5号線ワンマン化で運行をはじめました。昭和29年製の3両と昭和35年製の2両ではまったく形態が異なるため，以下では車号毎に解説します。

1101〜1103号

神戸市交通局1101〜1103号経緯

昭和29年に神戸で初めて扉を前中式とした3両を神戸市交通局長田車両工場で製作しました。長田車両工場は昭和5年に四輪車の車体鋼体化改造で300型を製作して以来，四輪車158両ボギー車60両を製作した実績をもち，これが最後の車両製作となりました。四輪車と600型は2段式の大きな側窓を持ち，米国のバーニーカー(ワンマン方式の四輪車)にも通じる軽快なデザインの車両として知られています。昭和10年に製作した700型は当時流行の流線型を取り入れ，車内は前後の扉間をロマンスシート(転換式クロスシート)とした名車でした。車体は側窓をさらに大きくとり，屋根は鋼板張りとして側版と滑らかにつながるようにしたため深くなり，結果，幕板と呼ばれる部分がまったくない構造となっています。前面には方向幕のため窓高さが低くなるので，運転台側面の窓の上部を滑らかな曲線で結んで，一体的なデザインに見せています。前面のカーブも前面と運転台側面の絞込みの2段のカーブで車体隅の角が目立たないデザインとしています。また車端の緩衝器のRが車体のRより小さいため，緩衝器のカバーの中央部が柔らかな曲線で膨らんでおり独特の顔となっています。さらに車体ウインドシルより上方は側面前面とも20mmの絞込みがあり，非常に繊細な流線型のラインを形作っています。この700型のデザインがその後の神戸市電の基本となりました。昭和12年には時局を考慮して三扉14mの大型車とした800型を製作。戦後は一時外注製作としていましたが，昭和24年に750型を再度ロマンスシートで製作しています。

1100型は750型と大きさは同じですが，前中式で引戸のため側面の絞込みが戸袋部から始まっており，新しいスタイルとなっています。前中式としたのは，当時六大都市(東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)で研究していた無音電車の統一規格に合わせたものと推察しています。扉は伝統の折戸が引戸となり，自動扉となりました。台車は無音電車の研究成果を先取りし，枕ばねもコイルばねで，弾性車輪を採用していますが，戦前700型で弾性車輪の使用実績があるところに，神戸の市電は東洋一と言わせる片鱗があります。

局史には昭和29年2月17日製作となっていますが，認可は6月16日となっています。最初は布引車庫配置となり，後に石屋川車庫へ，昭和43年4月に大阪車両工業にてワンマン化改造を行った後は和田車庫配置となりました。ワンマン改造以外の大きな変化はなく，昭和46年3月14日の神戸市電路線全廃により全車，広島に移籍となりました。

車体関係

外観：前述のとおり車体の先端を100mm絞っています。正面はほぼ等間隔で3枚窓で中央の窓の幅がやや広くなっています。前照灯は腰部中央に一灯設けています。尾灯は左側一灯でしたが，移籍後に右下側にも増設しています。左側にはトロリーレトリバーもありました。救助器は神戸市電独特のロックフェンダーでしたが，移籍後にバーフェンダーに変更しています。

側面の配置はD5D4で当時各地で製作された前中式と同じ配置ですが，前扉の幅に合わせて最後部の窓の幅が狭くなっています。また扉と窓の上端には1000mmのRをもうけて，側窓の高さ1080mmと正面窓の高さは895mmを滑らかに結んでいます。その他の窓と扉は1100mmピッチで，側窓と中央扉とも幅が1000mmであり，側面を透かして見ると左右非対称の窓配置なのに，柱の位置がそろっているのも神戸市電らしいこだわりです。全長12,700mm全幅2,438mm自重16.15tでした。

一般：一部に木部が残る半鋼製車体で製造は前述のとおり局工場です。

窓・戸：側窓は上部固定，下部上昇の2段窓で戸袋部は固定窓，正面は下降窓で中央と右側の窓にはワイパーがあり，窓枠左上部が斜めに切られています。窓枠は木製でしたが，正面左右と側面下部の開閉可能な窓枠は神戸時代にアルミサッシに更新していたようです。正面幕板部には方向幕は2つあり中央が行先，右側は神戸時代は経由地を示すものでしたが，広島では右側をワンマン表示としました。扉は木製の引戸で，窓は側窓と同様に2段となっており，下部の凹みに縦桟が2本入っています。

車内設備：床板は平板で，他の車両のように乗降口に近いところはスロープとするような構造は採用していませんでした。客室部は木製で運転台はタイル張りになっています。座席はロングシートで，ワンマン化改造時に中央扉前方の立ち席部を座席に変更しています。また，ワンマン化時に運転台に高さが3段階で調節可能な座席をHパイプに設け，Hパイプ自体は運転台の奥行き確保のため車内へ少しよっています。車内灯は蛍光灯を採用し，幕板部分のすぐ上に紡錘形の灯具を8個取り付けていました。運転台との仕切りのHパイプの上部は櫛桁がないのも神戸市電の特徴でした。定員80名うち座席36名です。

機器関係

主電動機・駆動装置：東芝製SE-133で38kW×2。駆動装置は釣掛式で歯車比は59:14となっています。

制御装置：直接式のKR-8です。

ブレーキ装置：空気，電気で手用は省略しています。

集電装置：当初よりビューゲルを装備して登場しました。取り付け位置は台車センタピン上です。ワンマン化後は明石製のZパンタQ30型を車体中央に装備しています。ビューゲルでは泰平製とともに多く使われた明石製ですが，Zパンタは神戸市電のみのようです。

台車：住友製FS62で，当時多くの車両が採用したオールコイルばねの台車です。他の台車と比較すると，軸ばねの高さを抑え台車枠上端をフラットにした外観に特徴があります。輪距は1400mmで主電動機も外掛けのため，コンパクトに見えます。車輪は新製時はPCC型の弾性車輪でしたが，後に一般的なスポーク車輪に変更しています。

変更点

広電移籍後の変更点については次項でまとめています。

1104〜1105号

神戸市交通局1104〜1105号経緯

本格的な無音電車PCCカー1150型を製作後の昭和35年の新車は1100型に戻りました。しかし車体は1150型と同様の全金属車体となっています。製作は1150型のほとんどを担当した川崎車両が担当し設計認可は昭和35年6月28日となっています。この車両が神戸市電の最後の新造車両となりました。昭和43年4月に大阪車両工業にてワンマン化改造を行った以外は大きな変化はなく，昭和46年3月14日の神戸市電路線全廃により全車，広島に移籍となりました。

車体関係

外観：1150型とよく似た車体ですが先端の絞りが50mmと半分になっています。正面は川崎製1150型と同じく上部隅にRをつけた窓が3枚等間隔で並んでいます。前照灯も腰部中央に一灯で，1101〜1103号より灯具が薄くなっています。尾灯は埋め込み型で2灯ですが，右側は移籍後に増設したため，左右の灯具の形状が違っていました。また腰板右側には1150型と同様の菱形の電照式の系統板を装備していました。1150型は神戸時代に他車と同じ系統板に変更しましたが，1104・1105は昭和53年ごろまで使用していました。ロックフェンダーの変更は1101〜1103号と同様です。側面の配置D5D4と寸法は川崎製1150型とほぼ同じで，1101〜1103号と比較すると扉上部隅のRやHゴムの曲線が目立つ車体となっています。

一般：全金属車体で製造は前述のとおり川崎車両です。

窓・戸：固定窓は正面中央と扉，戸袋窓そして側窓の上部で，すべてHゴムで固定しています。正面左右の下降窓と側窓の下部上昇窓，戸袋窓の内側はアルミサッシです。川崎1150型は全ての窓がHゴムで窓枠もプレスのため窓隅にRがありましたが，1104・1105ではサッシのため窓の隅は直角になっています。後年1150型もアルミサッシとなりましたが，戸袋窓内側はプレス+Hゴムのまま残っており，"日"の字のサッシの1104・1105とは見分けがつきました。正面幕板部の方向幕は1101〜1103と同様の使い方で，この隅にもRが入っていました。扉は鋼板プレスの引戸で，窓は2段，下部の凹みはありませんでした。

車内設備：床板は平板で，1150型は間接制御のため床面高さが高くなっていましたが，1104・1105では1101〜1103と同じ高さに戻りました。座席はロングシートで，ワンマン化改造時に中央扉前方の立ち席部を座席に変更しています。車内灯は蛍光灯で中央寄りに2列×5灯アクリルカバー付きのものを取り付けています。またあらたな試みとして扇風機を3台天井中央に装備しています。

機器関係

主電動機・駆動装置・制御装置・ブレーキ装置：1101〜1103と同一です。

集電装置：当初は泰平電機のZパンタを車体中央に装備しましたが，試用後はビューゲルに戻っています。ワンマン化後は明石製のZパンタQ30型に変更しています。

台車：本来であれば住友製FS62ですが，移籍後は神戸市電750型757・760が装備していた一体鋳造型で板ばねのH2105に変更しています。H2105は神戸時代に1102号などに装備した写真があり，何らかの要因でFS62が使えない状況にあったようです。このためFS62の次に新しい昭和27年製H2105を購入し台車を振り替えて統一したようです。H2105の輪距は1400mmで主電動機は外掛けです。

変更点

昭和46年3月14日に神戸市電廃止後，契約書上は4月30日和田車庫にて引渡しとなっていますが，広電の社内報「輪苑」によると3月17日には1104号など3両が江波車庫に到着しています。台車はFS62のままでした。乗降方式を前乗り後ろ降りから，後ろ乗り前降りに改め，その他改造を行って，5号線ワンマン化のダイヤ改正にあわせて投入しています。

車体は塗り替えずに導入しましたが，車体色がいろいろあると判別しづらいため，正面窓下に菱形黄色の警戒色を塗っています。またトロリーレトリバーは使用しないので取り外されました。

昭和50年11月1日危険物の取扱い不注意により千田車庫が出火し，1101号が焼失しましたが，昭和51年1月20日復旧しています。この際，Zパンタやワンマン機器の更新，蛍光灯の白熱灯化の改造を行っています。また焼失したアルミサッシの側窓を復旧の際に片面のみ木製に戻したため，見る側により印象が異なっていました。ドアも中桟のないプレスドアに変更しています。

昭和53年3月23日広島市の友好都市ハノーバ市の市電に書かれた動物模様の塗色を真似て1105号に塗装しました。以来ハノーバー動物電車と呼ばれてきました。

このころ，正面の系統板が丸型に全車両統一され，神戸市電独特の上部に照明がついた系統板や，1104,1105号の電照式の系統板が消えました。また正面窓上には京都市電のような水切りを設け，左右の窓上にはマツゲのような小窓を設けました。かなり不恰好ですが，この改造で，雨天でも少し正面の窓を開けて風を取り入れることが出来るようになりました。

昭和56年頃から，当時のバスと同様，正面の方向幕を大型の電動式に変更しています。左のワンマン表示幕が支障するため，外側に移動し枠自体も外に飛び出した形状となりました。それでも方向幕は中心より右側に寄ってしまっています。また方向幕の枠自体も，改造時期により四隅にRのない初期型と，Rのある後期型がありました。

昭和57年6月10日認可で1103号に冷房装置取り付け改造を行いました。三菱DA式と呼ばれるもので，屋根上に21000kcal/hのCU77ユニットクーラー，床下に起動制御箱と空調制御箱を設けています。ユニットクーラーは車体強度の関係で台車直上より車体中央に寄っています。床下の機器はAC220V,30kVAのSIVを構成しています。車内は室内灯と一体となった空調ダクトを天井に設け，補助電源系統を一新したため，不要となる250VAの回転変流器は撤去しています。

昭和58年6月2日認可で1104,1105号の冷房改造を行い，全車冷房付きとなりました。

昭和61年3月25日認可で保安ブレーキの取り付けを行い，平成6年にはブレーキ灯も取り付けるなど近代化を行っています。

平成7年の阪神・淡路大震災の時には，1月26日から2月9日まで運転台後ろに義捐金箱を設置し，故郷の支援を呼びかけています。

登場からずっと，千田車庫所属であり，昭和55年ごろから広告車として都心部を走る系統に集中的に使用したため，両数の割によく見かける車両でしたが，ステップがやや高く，先端の絞込みのためプリペイドカードを扱うようになってからは乗降口が狭い，幕板がないため直動式のドアエンジンに改造できないなど客扱いに難が出ていたためか，あっさり廃車が進んでしまいました。

平成15年3月18日，最後に残った1103号は江波車庫から神戸市の御崎公園へ戻りました。神戸ウィングスタジアムのある御崎公園は以前は競輪場で，隣接して1103号が所属していた和田車庫がありました。和田車庫はバスの操車場となり地下は地下鉄海岸線の御崎車庫となっています。3月28日には披露式を行いました。帰ってきて僚機608号がつけていたらしい，ちょっと寸法が合わないロックフェンダーに付け替え，やや神戸時代に近づいた1103号ですが，広島で働くためにかなり姿を変えた1103号を，神戸市民はどう見ているのでしょうか？また，震災以後大きく姿を変えた神戸の街並みは，1103号にはどう映っているのでしょうか？

車歴表