1080型

最終更新: 2006-7-18 作成: 2005-5-22

1080型

経緯

昭和50年代になると宮島線が直通電車主体となり，高床車は輸送力が必要な場合に使用されることが多くなったので，永久連結車に改造することになりました。改造による運用本数減少を補充するため，阪急電鉄から210系2両を購入しました。

阪急電鉄210型経緯

阪急電鉄210型は，京阪神急行電鉄千里山線用として昭和31年に有蓋電動貨車C#3001,3002の部品を使用して3両1編成のみ製作した車両です。

C#3001,3002は，新京阪鉄道が昭和3年に製作した6,7号有蓋電動貨車で，その後の事業者の合併により京阪電気鉄道そして京阪神急行電鉄に引き継がれた車両でした。

阪急千里線は，北大阪電気鉄道が千里山丘陵の開発のため建設した路線でした。免許は大阪天神橋筋六丁目市電終点から千里山までで，終点は公園墓地の計画があり，「葬儀電車」としての利用を見込んだものでした。しかし墓地計画が延び住宅地としての開発に切り替えます。また淀川の架橋工事が資金的に無理なため，下新庄〜南方は東海道線の廃線敷を払い下げで利用し，阪急十三駅へ接続して大阪市内との連絡することとし，十三支線として大正10年4月1日に十三−豊津間を開業させました。北大阪電鉄は，千里山線の収入だけでは鉄道建設が捗らないため，さらに京都方面への延長線建設を出願します。しかし，免許は城北−京都間を出願した京阪電鉄に降りてしまいます。京阪電鉄では城北から先の路線を城東線の高架改築による廃線払い下げで梅田までつなぐ計画でしたが，政治的な問題となり暗礁に乗り上げてしまいました。このとき，天六までの免許を持ちながら建設できないでいる北大阪電鉄に目をつけ，株式の過半数を取得して，大正11年8月に京阪電鉄が北大阪電鉄を支配下に入れました。大正12年4月に新京阪鉄道が北大阪電鉄の鉄道事業を引き継ぎ，天六淡路間および淡路新庄間の支線と京都への免許線の建設を進めるとともに，東海道線に対抗できるよう最高水準の技術を取り入れた高速鉄道にするため既存設備の変更も行いました。

昭和3年1月淡路−高槻町間開業とともに架線電圧をDC600VからDC1500Vに昇圧するさい，北大阪電鉄時代に製作した車両(客車8両,貨車2両)が使用できなくなるため，新たに魚菜車1両，無蓋電動貨車2両，有蓋電動貨車2両を製作しました。この有蓋電動貨車が6,7号です

昭和3年5月4日設計認可で竣工届は7号が8月1日，6号が10月26日となっています。

車体は全鋼製のボギー車で製造は梅鉢鉄工所，正面は切妻で3枚窓で，屋根がひさしとして突き出ており，同時に製作した無蓋電動貨車と同じデザインで，また大正13年に東洋電機製造で製作した電気機関車1〜3号に似ています。なお電気機関車は，当時，湿田地帯であった南方や淡路，下新庄へ千里山の土を運ぶため，4輪無蓋貨車(20両あった)を牽引するために購入した車両でした。なお，前照灯は電気機関車とは異なり，ひさしの下に取り付けられていました。

側面は乗務員扉，4個2列のベンチレータ，大型扉，ベンチレータ，乗務員扉となっています。

機器は，京都寄りにパンタグラフを設け，主電動機は750V75ps(TDK-531-B)×4で歯車比62:24，制御器はマルチプルユニットカムシャフトコントローラーのES-156-A，ブレーキはSME，台車は汽車製ブリルタイプのM-12とされています。これらの機器は，大正14年から千里山線用として製作した10形と同等であり，また10形と同じように大阪寄り運転台下にMGをつけていました。なお，本線用の100形(P-6)は200psの主電動機を適用しており格が違いました。

全長13,562mm車体幅2,278mm自重21.5t，荷重10tとなっています。

鉄道省の照会により昭和4年6月5日付で車種ごとに形式を変更することになり，記号デワ，形式3000型，車号6号が3001号に，7号が3002号となりました。

昭和29年10月1日貨物営業が廃止となり，昭和31年5月30日付で廃車。同日付で製作した210型に台車と主電動機を引き継ぎました。なお車体は倉庫としてその後も使用していたようです。

京阪神急行では，小形木造車の不燃化のため，昭和28年から機器を流用し車体を新製した改造車として神宝線へ610型を製作していました。610型は転用した台車の荷重負担力の関係で長さを15m級としています。210型は千里山線の輸送力増強を図るために，610型と同じナニワ工機製の車体に，余剰となっていた3000型の機器を組み合わせて製作した車両です。

Mc-T-McのC#211-261-212の3両1編成のみの製作で，C#261の台車は200型が昭和26年にKS-1Aに取り替えたため余剰となったブリル27MCB2を使用しました。

正面は，非貫通の3枚窓でガラスがHゴム支持となっています。側面はd2D6D3で1段下降窓です。

パンタグラフは連結面側に取り付けているが，これは1000系列以前の車両では唯一のものでした。当初はMcの2両ともにパンタグラフを設けていましたが，のちにC#212のパンタグラフを撤去しています。

制御器はES-530に変更，ブレーキ装置もAMAとATAとなっています。台車と主電動機は流用です。MGはC#211,261に，CPはC#212,261に設けていました。

昭和38年頃には嵐山線に移りましたが，小形で収容力が小さく，性能上他車とも混結もできないため，昭和51年6月7日付で廃車となりました。

車体関係

外観：正面は非貫通の3枚窓です。窓の高さは側面にあわせてあります。幕板には標識灯が2灯埋め込みのまま残り，阪急の様式を伝えています。アンチクライマーはついておらず，非貫通のせいもあって，あっさりした顔です。連結面側は広幅貫通路があり，両側には窓も設けています。側面はdD8D3+3D6D2dで，運転台直後の扉の移設のみに見えますが，よく見ると改造個所の窓柱が太くなっていることと，扉の開閉方向が逆になっているのがわかります。屋根にはの通風器を10個設けています。ウィンドウシルは平板で扉以外の個所に巻かれています。ヘッダは側扉上部には回り込んで巻いています。15,080mm車体幅2,700mm，自重は28.3tとなっています。

一般：内装を含むほとんどが鋼製で，車体はナニワ工機製でした。車内は阪急伝統の木目印刷のまま使用していましたが，廃車直前にはベージュ塗装となっていました。

窓・戸：側面は阪急伝統の下降窓で，戸袋窓は固定でスリガラス入り，後部車掌台は引き違い窓としています。日除けは鎧戸です。扉は広幅のものを使用しており，1070型というか阪急スタイルです。運転台直後と後部車掌台の扉が阪急時代とは逆方向に開くよう改造していたのも1070型と同じ。車体幅が広いのでステップなく，入線時には一部の駅のホームを削って対応しました。またドアスイッチは直通電車と同じような，個別操作が出来るテコ式のものが窓上に設けられていました。

車内設備：座席定員は38名，定員は110名でした。後部車掌台から運転台の間は車椅子乗車スペースのため，座席がありませんでした。床はリノリューム張で，阪急時代から茶色系でしたが，廃車直前にはグレーに更新していました。室内灯は蛍光灯でグローブ付きとなっていました。

機器関係

主電動機・駆動装置：55.95kWのTDK-531-Bで4個装備です。駆動装置は釣掛式で歯車比は62:24となっています。

制御装置：ES-530で主幹制御器はES-32というラッチの音がパチパチとにぎやかなコントローラをつけていました。

ブレーキ装置：空気はAMAで制動弁はM-24でした。手用は神宝線系とは異なり京都線系らしく円形ハンドルのものを装備していました。

集電装置：C#212が西広島寄りの1081号となったため，他の宮島線車両と同じく西広島寄り(運転台側)台車直上に東洋電機製造製のパンタグラフを追加設置しています。C#211改造の1082号については連結面側のパンタグラフをそのまま装備していましたが，営業で使用することはありませんでした。

台車：汽車製M-12です。広浜鉄道にも同様の台車を使用した車両がありました。

変更点

昭和58年頃にブレーキをSME化，保安ブレーキを追設，扉操作改造を実施，昭和61年には列車無線も装備など1070型と同様に改造しました。

1090型に続いて冷房化改造も検討されたようですが，直通電車重視の戦略により1989年に廃車となりました。

車歴表